いかにプライドを傷つけずにホームに入所させる事を実行するかは、とても悩むところ。
高潔で社会的地位の高い方ほど難しい・・。

 

ここには人との係わりを持つことが出きる環境があり、そこには多少なりとも緊張感があるので、自宅での生活よりずっと思考が働きます。この緊張感こそが主人の生きる気力を生み出しているのではないでしょうか。3ヶ月を経てようやく良い兆しが見えてきました。 -

 

ご主人(86歳)をホームに入居させた磯貝さんの奥様は、ご主人が加齢による認知症的な症状が顕著に現れていることに気付き、「もう私だけじゃ無理かもしれない、手遅れにならない内に早めの対応が必要」と考え、息子さんとも相談しながらこのホームにお世話になろうと決断しました。そこまでに至る心の葛藤や決心の模様をお聞きすることが出来ました。

 

もともと糖尿病もあり、甘いものも好きなので、食べる物にはとても気を使っていたんです。家ではほとんど何もせずゴロンと寝たり起きたりの生活でしたしね。

これではあまりにも不健康と散歩をするようになったんですが、その内、散歩の途中で甘い物を買って食べているんですよ。そうすると血糖値が上がってしまうことになりますからとても心配でした。コンビニに行けば何でもありますから、甘い物も手に入ることになりますが、もしお金を持たずにコンビニに入ってしまい、万引きでもしてしまったらもっとまずいと思い、散歩の時は1,000円だけを持たせて出掛けさせることにしたんです。

 

当時は要支援2でして、散歩に出たまま帰って来ないとか、帰り道が分からなくなったというような事は無かったのですが、徐々に3度の食事をしていながらもっと食べたがるようになってきたんです。こうなると、いよいよ私だけでは面倒をみるのは無理なんじゃないかなって思い始めたんです。なにしろ私も84歳になりますので、このままでは”老々介護”になってしまいますし、何かあった時に慌てないように早めに対処しておかなくてはいけないんじゃないかと考えて、息子に相談しました。

息子には何かと相談しておりましたが、彼が言うには「失禁が始まったらもう無理だよ」って。そしてその兆候が少し表れ始めたのです。息子は「お母さんが頑張ってお父さんの面倒をみられるんだったらこのままでもいいけど・・。お母さんの考え方次第だよ」って言います。そうこうしている内にお医者様からかなり血糖値が上がってきている事を告げられました。そして決心しました。「もう無理、介護施設にお世話になろう」と。

 

ご近所の方に相談したり、息子がいろいろと調べてくれたのですが、あまり自宅に近すぎる場所だと帰ってきてしまう事もあるかもしれないと、ほどほどの距離にある施設を随分探しました。そして、候補を4件に絞ってさらに検討しました。

結局のところ、息子が一人でこのロイヤル川口に見学に来た時の印象が一番良かったらしく、「スタッフの人達の態度も良かったし教育も行き届いているようだ」との意見があり、少し考えた末にこちらに決めました。

 

さぁ今度は主人を介護施設に入れる理由が必要な事に気づき、あれこれと悩みました。というのも、そんなに重症な認知症では無かったので、すんなり入所してくれるかどうかが心配だったのです。またすぐに帰って来られては意味がありませんからね。

結局、糖尿病の治療の為の入院という事にして入所させる事にしたんですが、暫くすると、「もう治ったから帰る」と言い出します。本人には認知症の自覚は無いようですので、”病院に閉じ込められた”という意識の方が大きかったように思います。

10日目に会いに行ったところ、「帰りたい!」と泣き出してしまったんです。それからは帰り支度をしたバッグを足元に置いて、私が来る度に「一緒に帰る」を繰り返します。

3月に入所し100日ほど経ちましたが、今でも10日に1度ぐらいは帰りたがって困らせます。そんな主人を見るのはつらいものです。それでも1日置きに会いに来ています。

 

本人の気持ちはまだ揺らいでいるようですが、最近になって「帰りたい」と言う回数は減ってきたように思います。気持ちを落ち着かせ、ここでの生活にどのように折り合いを付けさせるのか、本人の気持ちを知る事も必要なのではと思い、ノートに書いてもらうことにしました。そうしたところ、本人の気持ちがびっしりと書き綴られていたのです。細かい事にも気が付いていて、最近では私に対して気遣ってくれることもしばしばです。

“閉じ込められた”と思っている間は、不信感や孤独感があったように思いますが、ここでは、スタッフの方とのふれあいもありますし、一人で過ごす時間が少しずつ減ってきたことが、徐々に気力を甦らせているのかもしれません。

もちろん私自身の気分的な負担は少なくなりましたし、安心して見守っていきたいと思います。